2024年6月、“子どもの伴走支援”を生業とする約60人が、宮城県気仙沼市に集まりました。東日本大震災の被災した地域で開催されている「伴走者合宿」20代から60代まで年齢層は幅広く、東北を拠点に、子どもや若者の「探究学習」を支援する人が中心に参加。あくまでもプライベートで、自分の意志で集まった人たち。古くからの繋がりで参加した人もいれば、初めましての人も。共通するのは、「未来の子どもたちや東北地域について本気で語り合いたい」という強い思いでした。
探究学習の伴走支援をしている人たちが、1泊2日の合宿で集まるから見に来ます？きっと面白いですよ。
と、ある日のハタチ基金のミーティングで声をかけてもらいました。
ハタチ基金の広報を担当している私は、普段は東北の助成先団体からいただいた情報をもとに活動紹介の記事を書いたり、ときには東北へ取材に出かけたりしながら、東北の現状を寄付をいただいた方々を中心にお伝えしています。
なぜ気仙沼に、しかもプライベートで東北各県の子ども支援団体の方々が集まるのだろう？
そして、震災後10年以上が経った今でも、東北の被災した地域で子どもを支援する必要があるのは、どのような課題があるからなのだろうか。
直接現場の方々に話を伺いたいと、私も気仙沼に向かいました。
子どもの心を開くために必要な“包容力”と“遊び心”
気仙沼市にある「気仙沼市まち・ひと・しごと交流プラザ」で開催された伴走者合宿。晴天のこの日、会場の大きな窓から見える三陸の穏やかな海は、心を落ち着かせてくれました。続々と到着する参加者は、宮城県内のみならず、岩手、福島、青森などの東北各県や、東京、神奈川、島根といった遠方からも。総勢約60人。「久しぶり！」と抱き合う人もいれば、初めましてと名刺交換をする人まで様々な顔ぶれでした。
私が直接お会いしたことがあるのは2、3名のみ。完全にアウェイな場所で、皆さんとちゃんと交流できるのかが不安でした。ドキドキしながら会場に入る私に、「今回一番お会いしたかった人です」と、メールで仕事のやり取りをしたことがあった助成先団体の女性が笑顔で言葉をかけてくれました。しかも同様の言葉が他の方々からも。突然ぎゅっと距離が縮んで、受け入れてもらった嬉しさでほっとしました。
東北の子ども支援をしている方々の中には、震災直後、避難所で子どもたちのケアをしたり、勉強を教えてきた人も多いです。現在は、親や家族、学校の先生とは違った、いつでも気軽に相談できるお兄さんお姉さんのポジションで、日々子どもたちと接しています。親を亡くしたり、震災後に経済的困難な状況に陥った家庭の子どもたちも多いです。そんな子どもたちが拠り所とできるように“第3の居場所”を設け、向き合い伴走を続けています。
この日の私以上に（比較するのに値しないほど）、最初は心細い気持ちで門をたたく子どもたちもいたと思います。そんな子たちの固く閉ざした心を少しずつほぐしながら、どんな相手でも受け入れる度量が皆さんから感じられました。あぁ、即座に安心感を与えられるような方々だからこそ、10年以上も子どもたちに必要とされているんだなと、早速腑に落ちました。
子どもの伴走支援は東北から全国へ 大人の後押しで飛躍する子どもたち
伴走者合宿は2015年から始まり、コロナ禍で開催できない年もあったそうですが、定期的に行われています。毎年みんなで、子どもたちの伴走のあり方を考えたり、研修を行ったりと、変化し続ける世の中に合わせた教育について話し合ってきたそうです。今回は、初めての参加者も多く、テーマが設けられたワークショップ形式で進められ、自分の気持ちを言葉にして共有することが大切にされている会でした。
ワークショップのテーマは、「わたしたち」から始める未来。
ワークショップデザイナーの相内洋輔さんが最初に投げかけたのは、東北の少子高齢化と人口減少の現実。冒頭では、2050年に消滅する可能性がある自治体名がスクリーンに映し出されました。消滅の可能性がある自治体に住んでいる参加者からは大きなため息が。気仙沼市も消滅の可能性があるそうです。（参考：ＮＨＫニュース）東北地域を良くしていきたいと活動する人が多い中で、見過ごすことができない現実を皆で受け止めてからのスタートでした。
つづいてのテーマは、伴走者の多くが携わっている「探究学習・マイプロジェクト」について。コーディネーターとして中高生の探究学習をサポートしている人も多い中、「探究学習とはなんぞや」と明確な答えがいまだ出ていないという悩みも。その道のプロ、認定NPO法人カタリバの横山和毅さんがレクチャーをしてくれました。
東北の中高生の学校現場では、震災後、探究学習・マイプロジェクトが積極的に行われた地域も多いです。ここ10数年ほどで築き上げられた学習カリキュラムでもあるので、学校の教員は手探りで進めているのが現状。探究学習を伴走者に外部委託をしている地域もあります。
被災経験がある中高生の中には、探究学習・マイプロジェクトを通して、自分たちの地域や自分自身の未来と向き合い、将来の選択へと繋がった子どもたちも。被災して多くのものを失った子どもたちにとって、自分の未来について考えるきっかけとなる意味でも期待されています。
探究学習では、最初は個人的な視点だった課題が、突き詰めていくことによって、地域や社会全体を変えるための新しい発見が生まれることも。生きやすい世の中になるように、全国の課題を中高生自らが探究していく中、手を差し伸べ背中を押す伴走者の存在は欠かせないと感じました。
先が見えなくなった将来を自分の手でつかみとってきた“かつて被災した子どもたち”が、今、伴走者となって子どもたちのサポートをしている姿もありました。
八島さんは、岩手県宮古市で中学3年生の頃に被災。佐藤さんは福島県富岡町で小学5年生のときに被災し、避難生活を送った経験があります。二人とも中高生の多感な時期に今までの生活が一変。親を始めとする大人たちが忙しく復旧復興に心血を注ぐ中、誰にも相談できない思いを抱えながら過ごした時期があったそうです。そんなとき、ボランティアで外からやってきた大人たちが中心となって彼らを支え、心を通わせていったことで、自分自身が選んだ道を歩むことができました。
そして今、二人とも生まれ育った地域で子どもたちの伴走をしています。二人の歩んできた道には、地域内外の大人たちのあたたかな後押しがありました。
一方、大学卒業後に東京から気仙沼へ移住し復興支援を行い、2015年にまるオフィスを設立した加藤さんは、当時も今も地域の子どもたちが自立し、自分自身でやりたいことを掴み取れるように後押しする大人の一人。東日本大震災後、かなりの人数の若者がボランティアで東北の被災した地域に入り、今も住みながら活動を続けています。こうした動きは全国でも珍しいといいます。
東日本大震災から13年が経った今、伴走してもらった子どもたちが伴走する側になって活動をしています。そして、震災後に移住して今も伴走を続ける人たちと、同じ方向を見ながら自分たちにできることを模索しています。切れ目のない支援を続けられている理由は、新しい世代や価値観が加わってもなお、同じ目線で一緒に課題と向き合い続けられているからなのかもしれません。
伴走者合宿初日の夜、震災後に復活した気仙沼の酒場では、朝まで東北の子どもたちの将来について語り合う若者たちの姿がありました。
10年後も 20年後も その先も 子どもたちが希望を抱ける世の中になるように
伴走者合宿2日目。「東北のより良い未来を創るために伴走者どうしが協働できることは？」をテーマに、自由にアイディアを出し合うワークショップ。初日で温まった関係性のかいもあり、真面目なアイディアからちょっとふざけたアイディアまで、400個以上もアイデアが出ました。これにはファシリテーターの相内さんもびっくり。安心安全な人間関係があるほどアイディアの数は膨らむそうです。
400個以上のアイディアの中から、自分自身が取り組んでみたいテーマを選び、同様のテーマを選んだ者同士でチームを組んで実現できる方法を議論。就労2年目までの若手職員が他団体で経験を積む交換留学や、震災後の学びを他の地域でも還元する取り組みなど新しい提案がぞくぞくと出てきました。
合宿後すぐに実現したことの一つ、「繋がった伴走者の縁を今後も続ていくためのコミュニティづくり」 Slackで、今回の参加者のみならず、参加できなかった東北の伴走者たちがいつでもどこでも気軽に意見交換できる場が生まれました。それぞれが培った知見を今後も子どもたちに還元していくため、今日もやり取りが続いています。
そしてもう一つ、今も避難生活が続く方々がいる能登半島の被災地支援。各々のノウハウを片手に、東北の伴走者たちは能登半島の子どもたちのもとに向かい、支援を続けています。東日本大震災時に伴走した、当時の気仙沼の高校生（現在は大学生）たちとともに。
東日本大震災の被災地では、新しい学校や新しい家、新しい街並みが生まれると同時に、人口の流出も加速し、これまでの人間関係や地域のつながりが失われていきました。そこで生まれ育ち生きる子どもたちの未来を後押ししていきたいと、外から入ってきた若者たちが、地域に残った人たちや移住者たちと手を取り合って子どもたちに伴走しています。
どこに生まれても、どんな経験をしても、自分が進みたい道を自分で切り拓いていけるように。
東北被災地のみならず、日本全国の子どもたちが未来に希望を持てるように、「伴走」という形で教育現場で奔走を続ける彼らは、10年後、20年後、この先どんな教育を生み出していくのか。東北の伴走者たちが、子どもたちの状況に合わせて日々アップデートしていく“新しい教育”が、今後も楽しみです。
取材・文 ハタチ基金 石垣藍子
