
2018.11.07
2025年3月10日、ハタチ基金の1年間を振り返る活動報告会を開催しました。今回は、「一般社団法人まるオフィス」の加藤航也さんと、「一般財団法人まちと人と」の野内杏花里さんをゲストにお招きし、ハタチ基金代表理事の今村とともにクロストークを企画。テーマは「超少子化社会を迎えている東北の子どもたちの現状と私たちのチャレンジ」です。両団体とも東日本大震災発生直後にはボランティアとして東北に関わり、この14年の間、地域の現状や復興の移り変わりを目にしてきました。地域から子どもが減ることにより、教育の現場ではどのようなことが起きているのか。それぞれの立場からお話を伺いました。
一般社団法人まるオフィス 加藤航也(かとうこうや)さん
1989年生まれ。福井県福井市出身。2011年、東日本大震災の学生ボランティアとして宮城県気仙沼市に関わる。その後関東での会社員勤務を経て、2015年、気仙沼に移住。同年、一般社団法人まるオフィスを現代表や仲間と共に立ち上げる。2024年度は、ハタチ基金の助成によって、小学生の好奇心を育む「放課後たんけん」を実施。新しい教育の形をつくりだし、市の教育事業に働きかけることによって学びの機会を増やすことを目指している。
一般財団法人 まちと人と 野内 杏花里(のうち あかり)さん
東京都出身。山形にある東北芸術工科大学 コミュニティデザイン学科に入学し、子どもの居場所づくりについて研究。宮城県石巻市の子ども支援団体で、ボランティアとして居場所づくりを体験しながら、子どもが自分の道を自分で選択できる力を育むために必要なものは何なのかを模索する。大学卒業後は、石巻で活動をする「一般財団法人まちと人と」に入職。中高生の探究活動支援や、学校外での体験や出会いの機会をつくっている。
ハタチ基金 代表理事 今村久美
2011年、東日本大震災発生直後に東北被災地に入り、子どもの居場所づくりを始める。被災地の子どもたちにとって必要なのは、長期的な支援と考え、同年「ハタチ基金」を設立。活動期間を20年と定めて、全国からの寄付を東北の子どもたちを支える団体に届けている。2024年度は、12団体を助成金で後押しし、ハタチ基金活動終了後も自立して活動を続けられるよう支援している。文部科学省中央教育審議会委員も務める。
司会進行:ハタチ基金ディレクター 相内洋輔
東日本大震災をきっかに進む 子どもの減少
今村:現在私自身は、能登半島の被災地で子どもたちの支援に力を入れていますが、人口減少という観点からは、能登でも東北と同じようなことが起きていて。東北被災地は、全国に先駆けて人口減少を目の当たりにしています。震災以降、東北各地で建物の損壊をきっかけに県外に移り住む方も多く、学校の統廃合が一気に進みました。今回能登も、たくさんの人たちが100キロほど離れた金沢に一時避難をして生活を始めたのですが、避難先の方が居心地が良くなることは当然起きていて。仮設住宅ができても、様々な要因で戻らない人も出てきています。
大手新聞社の報道によると、現状、3割ほどの人口が減っていることがわかったそうです。
能登半島地震と豪雨で大きな被害を受けた石川県輪島、珠洲両市の推定居住人口が、先月時点で地震前から3割以上減っていることが、携帯電話の位置情報を基にしたデータ分析で明らかになった。県が住民票などから発表しているデータでは、同じ期間の人口減は約1割だが、実際はより多くの人が市外に避難したまま帰還していないとみられる。
(2025年2月21日 読売新聞報道より)
今村:そんな状況下で、東北の人たちはどのように復興に向けて意思決定をしていったのか。創意工夫を凝らして、地域の実情にあった教育の形をどのようにつくり上げていったのかを知りたくて、今、能登の方々は東北を参考にしています。起きてしまった課題に対してどう立ち向かっていくのかを、政策レベルでも、地域やNPOなどの支援団体の間でも議論が始まっています。
ーー被災地の人口減少は深刻ですね。ハタチ基金の助成先団体からお話を聞く中で、特に沿岸部の子どもの数が減っているという課題を伺います。
加藤さん:事業を進める中で調べたデータによりますと、私たちが活動をしている、宮城県気仙沼市の2023年度の出生数は190人。震災前の2010年は434人だったので、半分以下になっています。この6年間でも約90人ほど出生数が減っていると地元紙でも大きく取り上げられているので、人口減少のスピードは日々感じています。
また、気仙沼市の小学校は現在12校ありますが、2024年の入学児童数は280人。12校合わせて280人なので、1校あたりの人数を考えると少ないです。
まるオフィスが活動拠点にしている唐桑地域では、昨年小学校の統廃合がありました。今後住んでいる地域で通える学校がなくなってしまうかもしれないという不安も、地域の人たちとの会話に出てきますね。
少子化は日本全国の課題 東北被災地がこれからの教育モデルとなっていく
野内さん:私は主に、石巻市の中高生の探究授業をサポートしています。石巻市では、高校入試の定員割れが増えていると耳にしますが、必ずしも人数が少ないことが悪いことばかりではないと考えていて。
石巻地区全体の全日制の公立高校の2024年度出願者数は1118人。平均倍率は0.78倍で、全8校13学科・コース中、半数以上が定員割れ。定時制の2校4学科・部も定員割れとなった。
(2024年2月17日 河北新報より)
野内さん:もちろん人数がいないとできないスポーツの部活などは大変だったりしますが、探究の授業においては手厚くサポートができていて。探究の授業は、自分の好きなことや興味があることを見つけることからスタートしますが、自分が好きなことを見つけられない中高生もいます。人数が少ないからこそ、一人一人の悩みに寄り添ったり、好きなことを見つけるためのサポートもできていると、ポジティブに考えていて。将来石巻を離れる選択をしたとしても、自分の好きなことを地域で見つけて地元の魅力を知った上で、やりたいことができる場所へ羽ばたいていけたら。自分の人生を肯定的に捉えられるように思うんです。
加藤さん:確かにそうですね。私たちが行っている、気仙沼市唐桑地域の小学生を対象とした放課後プログラム「放課後たんけん」も、少子化だからこそチャレンジできたのかもしれません。
月に3回、平日の放課後に地域を探検したり、体育館で運動遊びをしたり。毎回50名ほどの小学生が参加してくれて、スタッフ10名ほどで各地に出向いていますが、これ以上の人数だとできることが限られてくるなと。
加藤さん:唐桑地域に住む同年代の大人たちに話を聞くと、昔はそのまま学校から直行で海へ遊びに行ったり、自然の中で遊ぶことが日常だった地域で。震災以降、海には子どもだけで行ってはいけないと親御さんから言われていたり、工事のトラックが今も多くて外を歩くことが危険だったり、様々な要因で遊びに行く場が減っています。
ある小学1年生が、入学して7か月が経つ頃、嬉しそうに「放課後に友だちと遊んだのが初めてだった」と言ったんです。同級生と放課後に遊ぶ機会が本当に少ないことを目の当たりにしました。
ーーそれは驚きますね。
加藤さん:まるオフィスも、中高生の探究学習をサポートしていますが、中学に入るまでの体験の機会が少ないと好奇心も育まれず、新しいことに興味を持ったり探究してみようという意欲につながらないと考えています。そして、唐桑地域だけの問題ではないと思いますので、新年度からは、気仙沼市全域の小学生を対象に実施できるよう調整をしていきたいです。
今村:お二人のお話にあったような子どもの課題は、今、被災地特有の問題ではなくなってきています。それを悲観するのではなく、少子化だからこそ一人一人に手厚く対応ができたり、個別最適な学びができると考える必要がありますよね。
実際に、岩手県の大槌高校での実践が国からも注目されています。人数が少なくなってしまった学校が1校でリソースを調達するのではなく、複数の高校が連携して同じ時間割にすることでうまくいった実例があります。探究学習などはオンラインで繋いで、他校の同級生とグループを組んで進めていて。自分の高校だけだと、保育園の頃から同じ顔ぶれのため、新しい発見や新しい人間関係はなかなか生まれませんし、教師が一人で対応できる範囲は限られています。オンラインで繋がった複数の先生がサポートに入ることで、テーマの選択肢も広げられますし、多様な同級生と議論ができます。
今後人口減少が進む日本の地域で取り入れていくべき実例ではないかと、今文部科学省でもこうした取り組みを応援しようという動きが出ています。
人数が少なくて廃部に追い込まれる部活もありますが、東北では、子どもだけのサッカー部ではなくて、大人と子どもが一緒に行う夕方から始まるサッカー部を実施している地域もあって。
震災をきっかけに、全国に展開できるような新しい学びの実証実験を東北の皆さんが積み重ねてきたので、これからより注目が集まっていくと思っています。
寄付者へのメッセージ
野内さん:普段、石巻の高校生たちと接する中、チャレンジする前から諦めてしまっている子どもたちも多く、もったいないなと感じています。私たちが子どもたちの探究に伴走することで、興味関心があることに気づけたり、自己実現したいことを叶えられる地域であることを伝えていきたいと思っています。皆さんのご寄付のおかげで、新しい取り組みにもチャレンジをすることができています。将来は、地域の大人たちや地元企業とともに中高生を応援していけるよう、活動を続けて参ります。いつもご支援をいただきありがとうございます。
加藤さん:私たちも、皆さんのご寄付のおかげで、「放課後たんけん」という新しい取り組みにチャレンジすることができました。気仙沼市は学童保育が無償で利用できる環境にあるのですが、学童の環境が合わない子どもたちは他の選択肢が少ないため、家の中で一人で過ごすことになってしまいます。学校や家庭とは違う場所で生き生きと遊べることがとても大事なことだと、毎回子どもたちの様子を見ながら感じています。
今、他の学区の方々からもやってほしいとお声がけいただいているので、どんな形だったら実現できるのかを試行錯誤しています。まずは、気仙沼市全域にこの活動を展開できるよう、放課後たんけんを育てていきたいと思っています。引き続き、応援のほどよろしくお願いいたします。
今村:お二人のような若い世代が、移住をして、今の東北に関わってくださっていることが希望です。
震災は、二度と起きてほしくない悲しい出来事でしたが、外から若い人たちが移住をして関わりたい地域になり、新しい出会いに繋がっているとしたら、お二人を始めとする若者の存在そのものが救いだなと感じました。私自身、若い世代を応援していける大人の一人でありたいですし、皆さんと一緒に応援を続けていけたらと思っています。
ハタチ基金の残りの活動期間は6年となりますが、今後ともどうぞよろしくハタチ基金お願いいたします。今日は、ありがとうございました。
活動報告会全編の動画はこちらからご覧ください。
2018.11.07
2013.08.30