助成先団体の活動内容や、被災した地域の現在の課題をご紹介する連載シリーズ。
今回は、岩手県洋野町で活動をする一般社団法人moova(モーバ)です。
moovaは、「人の成長を生み出し持続可能な地域の未来を築く教育事業」の推進を掲げ、洋野町の中高校生が、地域との接点を持ち、地域社会に参画する機会を増やす活動をしています。moovaの千葉桃子さんに、この地域特有の課題や、活動によって子どもや若者たちに起きた変化についてお話を伺いました。
一般社団法人moova 千葉桃子(ちば ももこ)さん
1998年岩手県奥州市生まれ、埼玉県さいたま市育ち。現在は岩手県洋野町在住。大学時代に、東北のまちづくりや地域活性化について学び、さまざまなローカルプレイヤーと出会うなかで自分も地方で働きたいと思い、新卒で洋野町に移住。フリーランスとしてまちづくりや教育事業に携わっている。一般社団法人moovaでは、洋野町の高校の総合的な探究の時間のコーディネーターとして学校と地域をつなぎ、協働的な地域探究学習の推進に取り組んでいる。
地域の人たちとの交流が少ない洋野町の中高生
moovaが活動の拠点としている洋野町は、2006年に沿岸の旧種市町と内陸の旧大野村が合併して誕生しました。町には2つの高校がありますが、元々は別の自治体であったことや、地理的な要因で交流が少ないのが現状です。どちらの高校でも、学校行事や総合的な探究の時間で地域と連携した特色ある取り組みを進めていますが、洋野町全体のことを考える機会はまだありません。
若い世代が自分たちが住んでいる地域に関心を持つことが、地域の持続可能な未来を築くことに繋がると考えています。そのためには、町内の大人はもちろんのこと、町外の大人も中高生に関わっていくことが必要です。
岩手県を始めとする東日本大震災で被災した地域には、町の復興や子どもたちを支援するために、全国からたくさんのボランティアで入ったり、移住をして今も活動を続ける人たちがいます。地域外の人たちと触れ合うことも、自分たちの地域の魅力に気づくきっかけとなることが多い中、洋野町ではこうした機会も少なかったと考えられます。洋野町は、岩手県沿岸部のなかでは、震災による被害が比較的小さかった地域のため、被害が大きかった地域と比べて、地域外の人の出入りも少なかったためです。
地域の大人と連携しながら 洋野町に愛着を持ってもらうプログラムづくり
そこで、洋野町の中高校生が地域と接点を持ち地域社会に参画することを目的に、moovaでは、主に2つの活動を通して地域の人づくりとまちづくりを行っています。
一つ目は、子どもと地域がつながる交流拠点づくりです。町の公共施設を利用して、中高生が地域の大人と交流する機会の創出や、探究学習やマイプロジェクトを実践できる場づくりを行っています。
生活が家と学校の往復になりがちな中高生の「第3の居場所」となるような場をつくったり、放課後や休日に中高生と地域の大人が交流することで、学校外での実践的な学びができる場を増やしています。
二つ目は、産官学連携の実践的な探究学習プログラムの実施です。
洋野町の高校では、2019年から探究学習に取り組んでいます。地域を知ることからスタートし、生徒の興味関心と地域資源を掛け合わせた学びを行っています。moovaは、総合的な探究の時間で、産官学連携の多種多様なプログラムを実施し、地域の大人を通じて地域の産業や課題を知る機会や、高校生自身の興味関心や課題感と掛け合わせた学びやプロジェクトの実践を行っています。
総合的な探究の時間では、町巡りや地域のプレイヤーとの対話、プレゼンを通して、インプットとアウトプットを繰り返すことで地域やそこで暮らす自分自身についての理解を高めています。
また、総合的な探究の時間を軸に、町の2つの高校が連携するプログラムを実施し、高校生の視野を広げ、学びを深めるきっかけをつくることも今後の取り組みの一つと考えています。
学校と、私たちコーディネーターが連携し、総合的な探究の時間を行うことで、地域の産業や企業に興味を持ち、町内に就職する生徒や、一度は町を出ても将来的にUターンを希望する生徒も出てきました。さらに、実践的な学びを通して町内の事業者や行政に協力いただくことで、地域の協力者も年々増えています。私たちだけではなく、地域内で中高校生を支える伴走者を増やしていきたいです。
寄付者の皆さんへのメッセージ
ハタチ基金の助成をいただき、洋野町でこれまでできなかった新たな挑戦をすることができました。皆様からのご支援に心から感謝申し上げます。
洋野町では、少子高齢化や人口減少による産業の衰退が課題になっています。そんななかでも、洋野町で生まれ育った子どもたちに地域社会や産業について知り、いつか戻ってきたいと思えるような町をつくっていきたいと考えています。
また、地域によって震災や防災に対する経験や意識に差がみられたり、震災の記憶がない子どもたちも増え、震災という出来事を町としてどう捉えるかは今後の課題であり、新しい世代の挑戦でもあります。
洋野町での取り組みが、同じ課題を抱えている地域の先進事例になるよう、励んでいきます。これからもどうぞよろしくお願いいたします。