2022.04.21
2022年度の助成先団体をご紹介する連載シリーズ。
今回は、宮城県仙台市、南三陸町を中心に活動をする「認定NPO法人キッズドア」です。
キッズドアは、全国規模で経済的に困窮している家庭の子どもたちの支援や、居場所支援を行っています。東日本大震災発生後は、仙台や南三陸町を拠点に、中高生向けの無料学習会を実施。教科学習以外にもキャリア教育、体験活動、季節行事等を行い、子どもたちが様々な人と交流する機会を設けています。
活動の様子と、現在の子どもたちの課題を、キッズドアの菊地和敏さんに伺いました。
認定NPO法人キッズドア 東北事業部チーフ 菊地和敏
1992年生まれ。大学を卒業後、2年間民間企業で働いた後、2018年にキッズドアへ入職。仙台市内で中高生を対象に無料の学習会や居場所の運営の他、キャリア教育や体験活動などにも力を入れている。
■東日本大震災後の家庭環境が 今に影響する
キッズドア東北事業部では、主に宮城県仙台市と南三陸町に住んでいる子どもたちを中心に支援しています。仙台の事務所では、仙台市内または近隣市町村にお住いの中高生を対象に無料の学習会を開催。利用している中高生は年間120名ほどになります。震災の影響を受けた世帯や経済的に困窮されているご家庭が対象です。
学年ごとや目的ごとに分かれていて7種類の学習会を運営しています。学習会の運営に加え、ハロウィンやクリスマスなど季節にまつわるイベントや、東京のオフィス見学ツアーなどを実施するなど、子どもたちの可能性を広げるための活動を行っています。
また、津波の被害が大きかった南三陸町では、震災直後から子どもたちの支援を行っています。震災当初は避難所での居場所支援や学習支援を行っていましたが、2018年より南三陸町内に住んでいる中学生を対象とした無料学習会を開催。年間20回ほど行っています。将来の可能性を広げるための学びとして、トークイベントやワークショップなども実施しています。
キッズドアに通っている生徒の中には、津波や地震の被害で被災したご家庭の子どももいます。
震災当時は幼かったため本人の記憶として残っていないのかもしれませんが、仮設住宅に住んでいたご家庭からは、壁が薄くプライバシーの無い狭い環境で、大人もイライラの矛先を子どもに向けるなど、子どもの生育に悪影響を及ぼす環境だったという話を聞きました。
また、お孫さんを引き取って育てているという祖父母も何組か見て来ました。親では十分な療育ができなかったため引き取ったものの、子どもとの関係づくりの難しさや、習い事や塾などの経済的負担や情報不足など、祖父母による療育には様々な課題があると感じています。
ご家族の状況や子どもの生い立ちを理解した上で、子どもにとって安心できる居場所、保護者にとって頼りになる相談先として、必要な存在であり続けたいと思っています。
■増える不登校の中学生 子どもも保護者も支えていく
日々子どもたちと接していると様々な課題が見えてきます。
ここ数年で、不登校で悩むご家庭からの問い合わせが増えました。実際に全国の不登校の生徒数は年々増加傾向にあり、宮城県においても2021年度に中学校で不登校だった生徒数は全国で2番目に多い数字となっています。不登校の理由は、無気力や不安を感じる、友人関係や親子関係、いじめ、生活リズムの乱れなど様々です。子どもだけではなく保護者の方の悩みも深刻です。
私たちは、少しでもこうしたご家族の支えになれるように、仙台では不登校の中学生を対象とした無料の学習会「HOPPER」を2020年度からスタートさせました。これまでに延べ15名の生徒が登録し通っています。英語や数学の学習に加えて近くの公園に出掛けて体を動かし、またボードゲームなどの遊びを通じて社会性を身に付けています。
HOPPERではこれまで3年間支援をした生徒全員が高校へ進学することができました。高校に進学後、学校の様子を話している姿を見て、支援してよかったと心から嬉しく思いました。
■人口の流出が進む南三陸町で 教育機会の格差をなくしていきたい
地方には都市部との「地方格差や教育格差」が存在します。大学進学に必要な情報を得ること、塾や予備校に通うことや、異なる価値観に触れる等の機会が、都市部に比べて限定されています。
支援している南三陸町には大学や専門学校、大きな塾等がなく進学イメージが湧きにくい現状があります。震災から12年の月日が経ち、南三陸町のハード面での復興はかなり進みました。しかしながら、町内の子どもの人口は減少の一途をたどっており、全人口に対する15歳未満の人口は10%程度になっています。
2022年夏に、南三陸町の中学校を訪問し、価値観や進路の選択肢を広げるために、仙台から大学生6名が出張講座という形でのキャリアワークショップを開催しました。校長先生から「年齢の近い大学生の皆さんから色々と教えてもらえる機会があることはとても貴重なこと」というお話をいただき、実施できたことの意義は大きいものだと改めて認識できました。
今後も、ただ単に勉強を教えるのではなく、勉強へのモチベーションに繋がるキャリア教育や体験活動にも力を入れて活動していきたいと考えております。
■寄付者の皆さんへのメッセージ
震災後から東北の地で活動を始めて12年が経過しました。長引くコロナ禍に加え、物価高騰によりご家庭の経済状況がますます厳しい状況に置かれていると感じています。東北ではコロナ禍であっても学習支援や体験活動を中断することなく継続してきました。コロナの制限が徐々に緩和される中で、今後は体験活動に力を入れ、子どもたちが希望を持って次のステージに進めるよう尽力していきたいと考えています。引き続き応援をよろしくお願いいたします。