2014.10.17
2022年度に助成先に新しく加わった団体をご紹介する連載シリーズ。
今回は、岩手を拠点に活動をする「一般社団法人いわて圏」です。
いわて圏は、岩手の人や地域、企業を繋げ、新しい挑戦ができるよう後押しをしています。ハタチ基金の活動では、高校生が「総合的な探究の時間」や実践型探究学習プログラム「マイプロジェクト」を通じた多様な学びが得られる環境をつくり、伴走する支援者の勉強会なども行っています。
活動の様子と、岩手の高校生たちの変化を、いわて圏の千葉桃子さんに伺いました。
千葉 桃子(ちば ももこ)
一般社団法人いわて圏ディレクター。1998年岩手県奥州市生まれ、埼玉県さいたま市育ち、岩手県洋野町在住。両親が岩手県出身であること、2013年に放送されたドラマ「あまちゃん」がきっかけで地域活性化やまちづくりに興味を持つ。大学時代は福島県、宮城県、岩手県の地域活性化や関係人口について研究。さまざまなローカルプレイヤーと出会う中で、自分も地方で働きたいと思い、新卒で洋野町に移住。現在は、高校生の探究学習やマイプロジェクトをはじめ、岩手県の地域づくりに取り組んでいる。
■探究学習による学びの“地域格差”が起きた 沿岸部と内陸部
令和4年度から、学習指導要領の改訂に伴い、「総合的な探究の時間(以下、探究学習)」が全国の高校で必修化されました。また、実践型探究学習プログラムである「マイプロジェクト(以下、マイプロ)」は、岩手県をはじめとする東北地域が発祥の地とされ、活発な取り組みが広がりつつあります。
岩手県では、震災で被害の大きかった沿岸地域に立地する高校が探究学習やマイプロに積極的に取り組んでいる一方、内陸地域の高校ではなかなか取り組むことができていませんでした。沿岸地域の子どもたちは、復興ボランティアに訪れるたくさんの大人を見て、自分も何かできることをやりたいと感じ、地域社会と連携をしながらさまざまなアクションを行ってきた経験があります。それが現在の探究学習やマイプロに繋がっています。
しかし、内陸地域は沿岸地域と比べて、そのようなきっかけが少なかったと考えられます。生徒数が多い高校が沿岸地域より多いことも要因となり、探究学習やマイプロの導入、普及が低調になっていました。
■岩手全域の高校生のサポートと伴走者の育成
私たちは内陸地域の高校を中心に、探究学習のサポートやマイプロプログラムの実施、地域との連携を支援しています。また、今後は、私たちだけでなく地域ごとに高校生を支える伴走者を増やしていくことも考えています。
いわて圏は、ハタチ基金へのご寄付で岩手県内の高校生が探究学習やマイプロを通じた多様な学びが得られる環境をつくることを目的に、3つの活動を行っています。
①探究学習・マイプロに取り組む高校生の伴走支援
沿岸地域では、探究学習やマイプロを通じて子どもたちが地域との関係性を深める中で、地元に肯定感を持つことができています。加えて、進学や就職で地元を離れても継続的に出身地との関わりを持つ「関係人口」となるケースや、Uターンにつながる事例もあり、ポジティブな循環が生まれつつあります。
一方で、内陸地域ではマイプロの実施や導入が進んでいない地域もあります。令和4年度は、一関市・奥州市・花巻市の3地域で、高校の探究学習の支援やマイプロプログラムの運営を行いました。
最初は自分の興味関心がわからず、探究テーマが決まらないという高校生もいましたが、テーマ設定のためのワークショップや地域の大人との交流を通じて、自分自身や地元への理解を深めることができました。この伴走支援をきっかけに、後述の「全国高校生マイプロジェクトアワード2022 岩手県Summit」に参加した高校生もいます。
②「全国高校生マイプロジェクトアワード2022 岩手県Summit」の開催
マイプロを実施した県内の高校生やその伴走者が一堂に会し、発表や対話を通して学びを深めることを目的とした「全国高校生マイプロジェクトアワード2022 岩手県Summit」を、2023年1月に開催しました。3年ぶりの対面開催が実現し、県内各地から52プロジェクト89名の高校生が参加。高校生の学びを支えるサポーターとして、岩手にゆかりのある大人32名にもご協力いただき、地域・年代・テーマを超えた学びの場になりました。
参加した高校生からは「自分では考えつかないような色々なマイプロがあってとても面白かった」「自分の好きなことを周りに素直に伝えることは恥ずかしい事では無いということを学んだ」「各地で情熱をもって探究活動に取り組んでいる人たちと交流できて良い刺激を受けた」など、熱量を感じられる感想が多く集まりました。
③伴走者のネットワークと連携体制の構築
探究学習は、高校生自身の学びや成長だけではなく、将来地域を担っていく人材の育成にも期待されています。すべての高校で充実した探究学習を実施できるように。高校生をサポートする伴走者を増やしていくことも重要だと考えています。
私たちは、探究学習やマイプロを伴走する教職員や地域のコーディネーター、自治体職員等の支援も行っています。オンラインでの勉強会・相談会は、参加者が悩みや課題、ノウハウを共有し、対話を通してそれぞれの動き方を考える機会になりました。
2023年3月には、「岩手県伴走者フォーラム」を対面で開催しました。探究学習やマイプロの先進地域である宮城県気仙沼市の事例を学び、岩手県ではどのような伴走支援ができるかを考え、地域との連携の可能性を深めました。また、「岩手県としてマイプロ・探究を盛り上げていくために乗り越えるべきことは?」をテーマにディスカッションを行い、それぞれの課題や知見を共有することができました。
探究学習のサポートやマイプロプログラムの実施で、内陸地域でも主体性を持ってアクションをする高校生が増えた手ごたえを感じています。高校生自身が楽しみながら取り組んでいることや、探究学習やマイプロを通じて地域の魅力に気づき、地元に愛着を持つ高校生が増えているのはいい流れだと思います。また、初めて岩手県Summitに参加した高校もありました。自分たちの活動を伝えることや、他地域の高校生との交流で学びを深め、次のアクションに向かって進んでいく姿が印象的でした。
■寄付者の皆さんへのメッセージ
ハタチ基金の助成をいただき、たくさんの意欲ある高校生や、それを支える大人たちと出会うことができました。皆様からのご支援に心から感謝申し上げます。
震災から12年が経過し、震災を知らない世代が増えています。震災で失ったものも多くありますが、震災をきっかけに生まれた人の繋がりや新しい動きは、確実に岩手県の誇れるものだと感じています。
私たちは、これからも探究学習やマイプロを起点とした「学び」を通じて、子どもたちが岩手でやりたいことに挑戦できる土壌づくりに取り組みます。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。