ハタチ基金の助成団体のひとつ、認定NPO法人カタリバが運営する「コラボ・スクール双葉みらいラボ」。福島県双葉郡広野町に5年前に開校した施設で、福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校に併設されています。同校に通う生徒が放課後の居場所として利用しています。
また、双葉みらいラボでは、コラボ・スクールのスタッフが、学校内の会議に同席したり、探究学習への伴走も行っています。避難経験のある生徒が多い中、生徒の今と将来に一緒に向き合いながら活動を続けてきたあるスタッフと先生方のインタビューをお届けします。
(写真)福島県広野町にある福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校
建学の精神は「変革者たれ」。福島県立ふたば未来学園は、この地域を取り巻く厳しい現実を前に、既存の社会システムの形にとらわれず新しい価値観を見出していこうと、「未来創造探究」という独自の探究学習をカリキュラムの柱に置くなど、特色のある教育活動を行っている学校です。震災から4年後の2015年に開校しました。
ふたば未来学園は、被災地に開校する高校としてのみならず、高校教育改革の最先端校としての期待とともに華々しく開校。そのような背景や、秋元康氏をはじめとした応援団の存在などから、注目を集めてきました。
一方で、入学してくる生徒たちは各々が厳しい避難体験を持っていました。「復興を支えたい」と志を持って入学する生徒もいる一方で、心には深い傷を負っていて思うように勉強や部活に向き合えずに苦しむ生徒たちも見受けられたのです。そのような状況の中で先生たちは、生徒たちの心を支えることで精一杯という状況でありながら、探究学習という新しい取り組みを開発することも求められている状態でした。
■本音の対話が協働関係を強くした
(写真)ふたば未来学園高校支援 責任者 長谷川 勇紀
コラボ・スクールスタッフの長谷川勇紀は、ふたば未来学園高校支援の責任者となり試行錯誤が始まりました。
始まった当初、長谷川は先生たちと1対1で対話する機会を設け、課題感などをヒアリングしながら、連携の形を検討するとともに、関係構築に取り組みました。そんな長谷川の姿を見ながら、ふたば未来学園側も、前述の企画研究開発部の組織内に長谷川の役割を位置づけ、協働しやすい体制を整えていきました。
(写真)先生たちと対話を通じて関係性をつくっていた(写真右端が授業中の長谷川)
長谷川:「特に意識的に行ったのは、先生の願いや想いを聞くことでした。風当たりが強いなかでも、先生たちの生徒への想いの強さを感じていたんです。だから、まずは聞くことに徹して、先生の想いや願いに近づけるようサポートすることを意識しました。コラボ・スクールスタッフは立場上、生徒と接する機会が多く様々な声を聞きます。生徒を主語にしながら先生と話をしていくなかで、先生たちの方から『こういうことがやりたい』『こんなことを相談したい』という本音が聞けるようになりました。」
2017年9月に開所した「コラボ・スクール双葉みらいラボ」は、ふたば未来学園に通う生徒であれば誰でも通うことのできる放課後の居場所です。常時数名の大学生スタッフが生徒たちを出迎え、教科や探究学習のサポート、進路や日常における悩みの相談などに応じており、多い日には100名を超える生徒が来館しています。人間関係の悩みや進路に関する相談など、学校生活や進路指導に関わる生徒の本音が大学生スタッフに伝えられることも多いそうです。それらを、必要に応じてカタリバスタッフから担任や養護教諭に共有しています。
(写真)「コラボ・スクール双葉みらいラボ」では放課後になると、生徒たちが代わる代わる来館する
当初は一方的に情報提供するだけだった状態から、徐々に担任など先生側からも意識的に見守ってほしい生徒などの情報が共有されるようになり、学校とカタリバが一枚岩で生徒を見守り成長を支援していく体制が築かれていきました。2019年4月には中学校も開校し、双葉みらいラボは、高校生に加え中学生も訪れる場所となっています。
こういった連携の結果、先生たちからも「生徒のつまずきにいち早く気づき、伸び悩んでいるところを解消させてくれる声掛けやアドバイスに、とても助かっている」「生徒に対する関わり方が重層的になる」などの声をもらう機会も増えています。
■教員とカタリバスタッフチームで磨き上げていく探究学習
探究学習の時間は、先生とコラボ・スクールスタッフがチームを組んで取り組んでいます。
新学習指導要領の一つの柱でもある「総合的な探究の時間」を先んじて取り入れたことで多くの注目を集めましたが、探究学習を作っていくことは先生にとって初めての取り組みでした。一方でコラボ・スクール、カタリバにとっても、学校に入り先生たちと一緒に探究学習を一緒に作っていくのは、初めての試みでした。
連携当初から協働の形づくりに取り組んできた、ふたば未来学園高校の南郷市兵副校長はこう語っています。
南郷副校長:「コラボ・スクールスタッフはまず初めに、毎週ミーティングを行うことを提案してくれました。生徒の状態や授業の進め方などを議論する場をつくってくれた意味は大きかったと思います。また、ワークシートなど授業のサポートツールも提案してくれました。先生たちも『どう進めていったらいいかわからない』と感じていた中、一緒に走ってくれる仲間が増えたことは先生たちの安心にも繋がりました。」
(写真)未来創造探究の授業。教員とカタリバスタッフが一緒にプロジェクト伴走にあたっている
放課後などを使って探究学習に取り組もうとする生徒のサポートをコラボ・スクールスタッフが行います。一方で先生は、その専門性や自分自身が持っている地域や企業とのネットワークを活かして生徒を学校外に送り出すなど、コラボ・スクールスタッフと教員の役割分担もできてきました。
探究学習5年目を迎えた今年度、ふたば未来学園高校には100を超える生徒たちの「探究プロジェクト」が生まれています。
企画研究開発部の主任として、ふたば未来学園の探究学習の推進において中心的な役割を担っている橋爪清成先生はこのように話してくれました。
(写真)ふたば未来学園高校 企画研究開発部主任の橋爪先生
橋爪先生:「私の担当教科は化学ですが、これまでは授業で見る姿だけで、その生徒を捉えてしまう部分がありました。昨年度は3年生の再生可能エネルギーゼミの担当を受け持ちましたが、例えば授業では寝ているような生徒が、探究の時間になると生き生きと活動している。探究学習での関わりを通して、教科学力は生徒の一側面でしかなく、教科学力とは関係なしに生徒の資質が発揮されたり、能力が開花したりすることがあるということに気づかされましたね。
昨年度からは、学力テストだけでは測れない“生徒が探究学習や学校生活全体を通してどのような力を身に着けてきたのか”ということを、生徒が担当の先生とともに振り返る面談を始めました。参考となる前例も少なく、検討段階では行き詰まることもありましたが、企画研究開発部の先生や探究学習を担当する先生、コラボ・スクールスタッフと議論しながら、形を作ってきました。
赴任当初はコラボ・スクール、カタリバとはどのような存在なのだろうかと少し離れて見ていた部分もありましたが、今ではこの学校を、生徒をどう成長させるかを一緒に考えていけるパートナーなのだと感じています」
(写真)生徒たちが探究学習の相談を行っている様子。生徒の活動をサポートする教員、地域の伴走者、カタリバスタッフが同席(右奥が企画研究開発部主任の橋爪清成先生)
最後に、来年度以降の展望を橋爪先生に聞いてみた。
橋爪先生:「ふたば未来学園の探究学習は、5年間の取り組みを経て少しずつ形になってきましたが、まだまだ課題はあると感じています。探究での学びと進路の接続事例を増やしていくことや、より深い課題設定を生み出すにはどう生徒に関わればよいのかなど、取り組んでいきたいことが色々ありますね」
学校とNPOのような外部リソースとのコラボレーション。10代が意欲と創造性を育める社会を実現するための一つの形が、ここで生み出されています。
被災地という震災前と比較すれば失ったものがある環境にありながらも、目指す到達点はマイナスからゼロではなく、マイナスからプラスへ。「創造的復興教育」という新しい教育の形を作っていこうとする、ふたば未来学園とコラボ・スクールの挑戦はこれからも続きます。
こちらの記事は、NPO法人カタリバのウェブマガジンの転載です。