2016.05.24
ハタチ基金の助成対象である、認定NPO法人カタリバの「コラボ・スクール」。
震災の被害が大きく学習環境の悪化が深刻であった地域で、今も変わらず学習支援と子どもたちの心のケアを行っています。
今回は、岩手県大槌町で運営しているコラボ・スクール大槌臨学舎で学び、今年新成人になった女性にカタリバがインタビューをしました。
震災を経験して、つらい気持ちと向き合いながらも成長していく9年間の心の変化をご紹介します。
カタリバは、2011年12月より岩手県大槌町でコラボ・スクール大槌臨学舎を運営し、被災地の子どもたちに関わってきました。
岩手県大槌町は、津波と火災で大きな被害を受けた、三陸沿岸の町。全人口15,994人のうち死者・行方不明者は合わせて1,284人。
建造物被害率は64.6%と、東日本大震災の被災地の中で3番目に高い被害がありました。住まいだけでなく、町に5校ある小・中学校も被災しました。町の多くの子どもたちの『日常』が失われてしまったのです。
◆「早くここから逃げだしたい」震災で居場所を失った子ども時代
今回話をお話を伺ったのは、大槌臨学舎出身の新成人、亜美さん。
彼女は、震災発生当時小学5年生。津波によって自宅は流され、母親の実家に5か月間避難をしました。
亜美さん:「避難先の小学校に通ったんですが、うまくなじめませんでした。被災地に仕事で残った父親とも、地元の友達ともまったく会えない寂しい毎日でした。当時はスマホなんて持っていないので、母親に頼んで友達のお母さんに携帯で電話をしてもらい、友達を呼び出してしゃべるくらいしか楽しみがありませんでした。」
亜美さんは、大槌町に戻る目途も立たず、「この先どうしていいのかわからない」という絶望的な気持ちで過ごしていました。その後、念願叶って地元に戻ることができましたが、そこから2018年12月まで、7年以上の仮設住宅暮らしが始まりました。
亜美さん:「大槌に戻れたのは嬉しかったけれど、仮設住宅には、4畳半の部屋がふたつだけ。思春期の身には、プライベート空間がないのは辛かったですね。自分の部屋が欲しい、といつも思っていました。」
そんな亜美さんは、イライラして両親に八つ当たりすることが多く、「早く自分の力で働いてここから逃げ出したい」とばかり思っていました。
ただでさえ不安定な思春期、10代のほとんどを、自分の思うようにならずに不便な仮設住宅で過ごした亜美さん。
彼女に息抜きできる場所や、心の支えはあったのでしょうか。
◆「ほっとできる場所」から「やりたいことを探究する場所」に
亜美さん:「中学生になってから、放課後にコラボ(大槌臨学舎)に行くようになりました。きっかけは友達が行っていたからなんとなく。はじめは週2回の授業の日だけ行っていたのですが、家ではなかなか集中できず宿題もできないので、授業がない日も通って自習するようになりました。勉強目的で通っているうちに、いつからか友達やスタッフと一緒に勉強したり、思いを話せることが楽しくて行くようになりました。その時は気づいていなかったけれど、コラボとの出会いで自分は大きく変わったんだと思います。震災後、『やっと自分の居場所ができた』ように思えて、ほっと気持ちが落ち着いたことを覚えています。」
写真:大槌臨学舎に通う当時の亜美さん(写真中央左)
亜美さんのように被災した子どもたちは、仮設住宅や仮設校舎などでの生活を余儀なくされ、日常の居場所も、落ち着いて勉強する場所も失っていました。
そんな子どもたちを助けたいとカタリバが現地調査を行ったところ、保護者たちからも、『子どもたちの放課後の居場所』を求める声が多く、この放課後学校である、コラボ・スクール大槌臨学舎設立に至りました。
現在も、町内の子どもたちの学習指導と心のケアを行っています。
亜美さん:「コラボで、同じく仮設住宅に暮らす友達とお互いの不満や悩みを思う存分語り合うことができて、『悩んでいるのは自分だけじゃない』とわかり、勇気づけられました。元々、人に自分から話しかけにいくタイプではなかったんですが、スタッフや様々な大学生・大人たちと関わる機会を得て、引っ込み思案だった性格もちょっとずつ変わったと思います。」
中学卒業間近に行われる『やくそく旅行』というプログラムにも積極的に参加し、東京を訪れました。
旅の目的は、これからの生活で大切にしたいことを見つけることです。
そこで、身の回りの課題や関心をテーマにしたプロジェクトを立ち上げ、アクションに取り組む高校生たちの『マイプロジェクトアワード全国大会』を見学しました。主体的に行動し、自分のやりたいことや思いを語る先輩たちの姿を目の当たりにし、「高校生になったら、自分もマイプロジェクトに取り組んでみたい」と決意しました。
高校生になった亜美さんは早速、大槌臨学舎でマイプロジェクトを進めていきました。
最初は何からやっていいかわからないという迷いもありましたが、スタッフに日常的に声がけをしてもらい、自分の内面を掘り下げたり町の課題に目を向けたりすることで、徐々に方針を作っていくことができたそうです。
彼女のプロジェクトテーマは、『身近な人に、感謝や気持ちを伝えるきっかけづくりをする』ということ。名付けて、『Pleaseつたつた』。
「自分が手仕事で作ったものを渡せば、思いを伝えるきっかけになるのでは」と考え、ものづくりワークショップを実施したり、手紙リレーという企画に取り組みました。町内のショッピングモールに掛け合い、モール内の一角にイスとテーブルを設置。買い物客に声をかけてものづくりの機会を提供し、つくったものを渡すことをきっかけに「普段思いを伝えていない人に伝えよう」と呼びかける活動を行いました。
写真:ショッピングモールの一角を使って行ったマイプロジェクトの様子
亜美さん:「いざ自分もマイプロジェクトを始めよう、自分にとって大事なことは何かと考えた時に思い出したのは、震災の一時避難から故郷に戻ってきた経験です。子どもだった私にとって、5か月間地元を離れるという不安はとても大きかった。『大槌町に戻っても、友達に距離を置かれてしまうかな?』 と心配していました。けれども友達は自然に『おかえり!』と声をかけてくれ、私が戻ってきて嬉しいという思いを言葉で伝えてくれました。気持ちを伝えてもらうことで、すごく安心できたんです。そんな原体験がこのプロジェクトを動かすエネルギーになりました。」
子ども時代引っ込み思案だった彼女は、友達関係の苦い経験もしています。喧嘩ばかりしていた同級生に、「本当は嫌いじゃない」という本音を伝えたかったのですが、彼は亡くなりました。自分の気持ちを伝えられず仕舞で、後悔がありました。
亜美さん:「私を含めて、自分の思いを伝えるのが苦手、意見を言えない人って多いのではないか。自分が活動することによって周りもわかってくれるし、自分自身も気持ちを伝えられるようになれるのではないかという思いで取り組みました。」
ひとりひとりが自分の思いを誰かに伝えていけばそれが派生していく。言葉をかけ合う人々で町がいっぱいになったら、大槌はもっと安心して暮らせる町になる、自分の地元がもっと素敵になる。そんな目標も持って、必死に取り組みました。
◆「地域のためにできることをしたい」マイプロジェクト経験で見つけた進路
結果、ワークショップに参加した町の人々から、「思いを伝える機会ができてよかった」と感謝の言葉をもらい、高い評価も受けてプロジェクトは成功。「マイプロジェクトを通して自分も地域に貢献できた」という手応えを感じていました。
亜美さん:「私も満足していました。けれども大槌臨学舎のスタッフから、『結果に満足しているだけではいけない。何を学び、次にそれをどう活かすかが重要』とアドバイスを受けたんです。この経験を次にどう活かすかを考えて、今後の進路と結びつけきました。以前は、町を離れたい、都会に行きたいと思っていました。けれどもマイプロジェクトを通じて、地域に貢献し、感謝される喜びを初めて感じることができました。自然と、『地域のために自分ができることをしたい』と気持ちが変わっていったことに気づいたんです」
気持ちの変化に気づいた亜美さん。様々な選択肢はありましたが、自分は地元に残って働いて地域に貢献し、大槌町の復興を見届けたいという考えに至りました。
「ここから逃げ出したい」「こんな生活は嫌」と思っていた子ども時代の亜美さんが、現在の亜美さんを見たら驚くかもしれません。
高校卒業後は地元の農協に就職。窓口業務を担当し、利用者の相談や要望に応える多忙な日々を送りながら、地域の一員として役に立っているという実感もあるそうです。
「地元が大好き」と語る彼女に、成人になった抱負について聞いてみました。
亜美さん:「まずはせっかく選んだこの仕事を頑張りたい。また、岩手県内のすべての市町村に旅をして制覇したい。岩手にはこんなにいいところがある、ってもっと見つけて色々な人に伝えたいです。マイプロで、自分の思いを人に伝えることの大切さを学んだので、その経験をぜひ活かしていきたいです。」
震災の絶望の中、悲しみ、孤独、いら立ちを感じていた亜美さんは、9年間の出会いや学びによって大きく変化しました。置かれた場所から逃げ出さず自分ができることを見つけ、「地域や人々の力になる」という思いを持つ一成人として、強く成長しました。
社会人となった亜美さんは現在、カタリバへの寄付も始めました。
亜美さん:「中学時代からお世話になったカタリバに少しでも恩返ししたくて。やっぱり今年も災害とか起きていて、私が震災で体験したようなつらい思いをしている子たちの力に少しでもなれたらなと思っています。マイプロジェクト事業のますますの発展とコラボのような場所が全国に拡がっていくことを期待しています!」