2020.05.15
助成先団体の活動内容や、被災した地域の現在の課題をご紹介する連載シリーズ。
今回は、宮城県石巻市で活動をする「一般社団法人イトナブ石巻」です。
一般社団法人イトナブは、全国どのような地域でも都市部と同様のプログラミング教育を提供し、その学びを通して若者や子どもたちが自ら挑戦することへの後押しを行っています。
イトナブ石巻の須藤 大斗さんに、現在の石巻市の子どもたちにおける課題や、支援によって子どもや若者たちに起きた変化についてお話を伺いました。
一般社団法人イトナブ石巻 須藤 大斗(すとう やまと)さん
宮城県南三陸町出身。自身も東日本大震災で被災。志津川高校(現南三陸高校)卒業後は、イトナブの教育事業部に所属し、宮城県を中心にプログラミング教育のイベントを実施。県内外の小中高生に向けて、年の近いお兄さんのような存在としてプログラミングの楽しさを広める活動をしている。
趣味は、ドライブと写真。
地域の仕事の消失により生まれた教育格差 子どもたちへの影響は
東日本大震災による石巻市の被害規模は被災3県の約2割に及ぶ甚大なものでした。その後の地盤沈下などによる間接被害も深刻化したことによって、地域の若い世帯が内陸部に避難をしたり、勤務先の消失などや所得の減少にも繋がっていきました。
石巻市や近隣地域を支える水産業などの地場産業が壊滅的な被害を受けたことで、石巻市内に親の働き口がなくなるなどその後も困難が続いたため、子どもたちの課題は後回しになりきめ細やかな対応ができていませんでした。
地域の産業が失われたことにより、子どもたちが「石巻で生きていきたい」と思っても、外に出て行かざるを得ないと感じてしまうことは、子どもたち自身にとってデメリットであるとともに、石巻市にとってもデメリットになります。
また、被災地域外の子どもと比較して被災地の子どもたちには教育的な支援が少ないこともその後に影響しています。震災後に充分な支援を受けられなかった子どもたちが成人し社会に出た際に発生する課題が、経済的な格差にまで繋がっていく可能性があると考えています。
自分の将来は自分でつくっていく 論理的思考と挑戦心を養う場づくり
ハタチ基金からの助成によって、石巻市の子どもたちの学びの場「LAB石巻」を立ち上げることができました。地域の子どもたちの居場所づくりを目的としたLAB石巻では、プログラミングをプロのスタッフから教わったり、自分が求める学びを深めたり、自由に好きな時間を過ごすことができます。
プログラミングというと、ITやウェブ上の技術と捉える方もいらっしゃるかもしれません。
子どもたちがプログラミングを通して創意工夫することや、プログラミングやITに精通しているスタッフから教えてもらったことを自ら他の仲間に教えることで、他者との関係構築を育むことができます。実際に利用している子どもたちの多くは、プログラミングでの学びがきっかけとなり、自分で考え工夫する力が養われている様子がうかがえます。
以前、ITやプログラミングが大好きだったものの、学校の友だちとは話題が合わず、次第に孤立し登校拒否になった子どもがいました。
その子は、小学6年生のときにイトナブ石巻のプログラムに参加を始め、そこでは同じような思いを抱えた仲間たちに出会い、共感と支えを受け、自信と勇気を取り戻していきました。次第に学校にも通えるようになり、現在高校2年生の彼は、イトナブ石巻のプログラムではメンターとして活躍しています。自身の経験を活かし、後輩たちを励ましながら一緒に成長しています。
私たちは、自分の将来を自分が作りたいと思ったものに変える力を育むために、論理的思考や挑戦心を養う場づくりとサポートを行っています。将来のキャリアについて学ぶ勉強会も開催していますが、子どもたちが自身の未来を希望あるものと考え、やりたいことに向かって取り組んでいけるよう今後も支えていきたいです。
寄付者の皆さんへのメッセージ
地方にはまだまだ支援が行き届いていない地域が数多く存在しています。
そして、子どもたちは生まれ育つ環境を自ら選ぶことはできません。
だからこそ私たち大人が率先して、子どもたちの未来を切り拓くための堅固な土台を築き、その土台の上で子どもたちが自由に成長できる環境を全国各地に広げるべきだと信じ、情熱を持って活動しています。
今後ともご支援のほどをよろしくお願い申し上げます。